2020.10.14 ニュース記事を1件公開しました。

【レビュー】『デスストランディング』KOJIMA PRODUCTIONSが魅せる新たな”エンターテイメント”

出典元:KOJIMA PRODUCTIONS

「ポリスノーツ」や「メタルギア」シリーズで知られる、ゲームデザイナー小島秀夫氏が率いる”KOJIMA PRODUCTIONS”が贈るPS4向けのファーストタイトル『DEATH STRANDING』。

当記事を綴るにあたり、SNS上の感想や国内メディアのレビューを拝見した。多く挙げられていたのは「自分は楽しめたけれど人を選ぶ作品」という事だろうか。
メタスコアの点数が割れていたり、配信や動画を見たプレイヤーの否定的な意見も目に止まった。

何故人を選ぶゲームと評されるのか…当記事では、そんな本作についての感想を綴っていきたい。ネタバレはしていないので購入を検討している方も読んでいただきたい。

“デシマエンジン”で表現された美麗なSF世界で展開される、濃密で哲学的なストーリー

舞台となるのは近未来の北アメリカ。「デス・ストランディング」という未曾有の現象が発生し、滅亡の危機に瀕した人々に物資を届けながら現象の謎を追い、分断された世界を繋ぐことが目的となる。

デシマエンジンで表現されるグラフィックは圧巻の一言。空気感すら感じる事のできる非常に緻密で広大なフィールドが処理落ちすることなく美麗に描かれる。随所にあるデザインセンスの光るSF的な建築物も世界観の独自性に貢献している。

出典元:KOJIMA PRODUCTIONS

その広大かつ美麗なSF世界で、“絆”をテーマにした巧みなプロットと哲学的なメッセージ性の強い濃密なストーリーが繰り広げられる。小島氏もライターを務めるシナリオには様々な興味深い謎が潜められ、それを解明すべくプレイ意欲を高めてくれる。

豪華俳優陣がキャストを務める魅力あるキャラクター、息を呑む演出の数々

本作は、テレビドラマ「ウォーキング・デッド」等で名を馳せたノーマン・リーダスをはじめ、マッツ・ミケルセン、レア・セドゥ、リンゼイ・ワグナーなどの世界的名優がキャストを飾っている。

それらの名優が演じるキャラクター達の生い立ちや背景は謎に包まれており、メインストーリーを追うことで徐々に解明されていき、やがて魅力ある人物へと変わっていく。

出典元:KOJIMA PRODUCTIONS

キャラクターを表現する場面場面に応じたフェイスモーションも非常に豊かで、カットシーンを軸とした数々の息を呑む演出や二転・三転する筋書きも相まり、プレイヤーの心を掴む

また小島作品ならではのユーモアも健在。温泉に入れたり、キャラによっては”トンデモ”な設定を持っていたりとクスっとくる演出も魅力の一つだ。

「配達」という1点に集約した一貫性あるゲーム性

分断された世界を繋ぐ具体的な方法は各地に様々な”モノ”を配達し、カイラル通信と称するネットワークで世界を繋ぐ事だ。
本作のゲーム性はこの1点の行為に集約されている。

配達の際はまず積荷を準備する。主人公「サム」が運ぶことになる様々な荷物には”重さ“の概念があり、ポーチに入れる、ツールハンガーにかける、背負って持っていくなどそれぞれの荷物に対して運び方を選択する事ができる。運搬の道のりは険しいもので、傾斜が急な坂や流れの早い川、足元が安定しない雪道など様々な悪路を乗り越えなくてはならない。積荷全体のバランスが悪いと体勢を崩しやすくなり、転倒してしまうと最悪の場合荷物が壊れてミッション失敗となるため、何を持っていくのか、どう運ぶのかを考慮しながらバランスを調整していく事が重要なポイントとなる。

出典元:KOJIMA PRODUCTIONS

その積荷を運ぶ方法は歩いていく事が基本となる。この歩く行為に対する表現が実に深い。道となる地面の石一つ一つにも高低差がつけられているこだわりっぷりで、高低差に応じたモーションも用意されている。バランスを崩してふらついた際は踏ん張る必要があるため、常に一定の緊張感を味わうことができる。

積荷を運ぶルートはプレイヤーが自由に設定することができ、順当な道を選んでもいいし、便利アイテムとなる梯子やロープを用いて悪路を開拓して最短ルートを目指すこともできる。プレイスタイルにあったルートを構築していける自由度も兼ね揃えている。

出典元:KOJIMA PRODUCTIONS

積荷のバランスやルートを考慮するだけでは上手く事は運ばない。道中には様々なアクシデントが待ち受けている。

一つが荷物を奪いに来る「ミュールと呼ばれる組織。組織のメンバーに視認されるか、近辺に配置されているセンサーで探知されると襲撃を受けることになり、積荷を守りながら格闘攻撃や非殺傷武器で立ち向かわなければならない。とはいえ、ミュールの基地が存在する範囲は事前にマップで視認できるため、基地を避けるルート構築をしてもいいし、一人一人はそこまで脅威的ではないため、基地に蓄えられている物資を目当てにあえて潜入してみるのも良いだろう。

出典元:KOJIMA PRODUCTIONS

もう一つが特殊な雨”時雨”が降る所に現れる「BT」。ミュールよりも強敵に位置づけされる存在で、通常では姿を捉えることができず、捕まればたちまちピンチに陥ってしまう。そこで活躍するのがオレンジ色のポッドに包まれたサムの名パートナーとなる赤ちゃん「BB」だ。

出典元:KOJIMA PRODUCTIONS

BBを要とする「オドラテグ」と称するセンサーがBTの生息地に近づくと自動的に起動、立ち止まり探知することでBTの姿を視認することができる。息を潜めひっそりと移動し、要所要所で武器を用いて撃退するなどして生息地を切り抜けていくことになる。なお、様々な姿のBTが存在し、大型BTとの対峙ではボス戦と呼ぶにふさわしい骨太な戦闘を楽しむことも出来る。

これらのアクシデントを考慮すると、武器も持っていこう、時雨で荷物が壊れると駄目だから修理用のスプレーも持っていこう、雪道がありそうだから暖かくする‥といった具合に積荷がパンパンになる。積荷の選別が配達のキーとなっており、本作ならではの戦略的思考を必要とする。

配達効率を上げるアイテムやインフラ整備など、次の配達意欲を高めてくれるゲームデザイン

配達を終えると配達結果が評価され、周囲の信頼度や配達人としてのグレードが蓄積されるほか、報酬を受取ることができる。

報酬の中には運搬を便利にするバイクやトラックといった乗り物や、持てる重量を増やしたり走る速度をあげてくれるアクティブスケルトンなど配達効率を上げるアイテムを作成できるようになったり、休息できるセーフハウスや標識、国道といった様々な建築要素が登場する。

出典元:KOJIMA PRODUCTIONS

配達をこなす度に様々な要素が段階的に解放されていくことによって、次の配達意欲を高めるとともに、より柔軟なプレイスタイルが確立されていくゲームデザインは素晴らしい。

そして、配達をより効率化するためにマップ上に建築物をひたすら配置してインフラを整備し、世界全体を近代化させていくのもこのゲームの醍醐味だ。建築するための資源も配達することで確保することができるようになっており、それぞれの要素が上手い具合に循環するようになっている。

ゲームバランスを崩さない、先進的なオンラインシステム

ゲーム性をより豊かにしてくれるのが、カイラル通信で繋ぐことで恩恵を得られる絆を重視した間接的なオンライン共有システム“ストランド・ゲーム“だ。
他のプレイヤーの足跡や共有された建築物を活用することができるようになり、本作中で最もやり込み甲斐を感じる要素といっても過言ではない。

このシステムの先進的な所は”カイラル通信で繋いだ場所でないと恩恵を得られない”という点だ。平たくいうと、一度配達した事のあるエリアでない限りは利用できないシステムになっており、よくある緩いオンラインシステムではゲームバランスを壊しかねない場合もあるが、本システムではそのような事象は発生しない。

出典元:KOJIMA PRODUCTIONS

そして、通信を繋げることで現れる他プレイヤーの建築物に対しては「いいね!」ができる。配達人グレードが上がる以外に目立ったメリットはないのだが、誰もが持つであろう承認欲求をほのかに満たしてくれる。何より他のプレイヤーとの繋がりを感じることができる。緩いオンラインシステムとしての文化を語るうえで歴史的といっていいほど革新的な仕上がりになっている。

疑問視されるユーザビリティへの配慮

全体的には非常に満足感の高い作品だったのだが、実をいうと不満点もある。おおまかにいえばユーザビリティの面だ。

まず、配達物の受取・納品の際に何度も見る事になるカットシーン。スキップも可能だが「OPTIONボタンでメニューを開く→スキップを選んで○ボタン」という2段階の工程を踏む必要があるため少々煩わしい。プライベートルームやセーフハウスのシャワーシーンも同様にカットシーンが流れるのだが、これに至っては4段階に分けてスキップする必要があり、ボタン長押しで一括してスキップといった事が出来ず、同様の印象を持った。

それから演出面。BT遭遇時に強制的に流れるカットシーンはスキップすらする事が出来ずもどかしく感じる。そして最も言及したいのが、とあるパートに存在する「淡々とフィールドを走る→お話→淡々とフィールドを走る→お話→‥」なシーン。正直このシーンが本作中で一番のストレスを感じ、かなり首を傾げるものだった。動けないのが不満なのではない、それをするぐらいならカットシーンとしてまとめて欲しかった。

総じていうと「この作品はユーザビリティに優れています」とは言い難い。

本作を楽しめるか否かの焦点とは

さて、ここまでで本作に対する自身の感想を述べさせてもらった。

本作が何故人を選ぶゲームと評されるのか…
ゲーム性が一点に集約されているため、プレイヤーによっては繰り返し行う配達という行為が単調に感じてしまう。時には怒涛のカットシーンでストーリーが語られるため、操作出来ないことへの不満が募っていく。現代社会をなぞったような哲学的なメッセージ性は人によっては重いと感じるかもしれない。そういった要素も挙げられるだろう。

筆者としては本作を楽しめるか否かの最大の焦点は『いかにサムに感情移入できるか、一体になれるか』だと考えている。

FPSで自キャラが撃たれた時、格闘ゲームで攻撃された時、アクションゲームでダメージを受けた時、それらの時に瞬発的に『痛い!』と発してしまう。
これに類似する感覚が常に持てるかどうかだ。

本作ではそういった感覚が芽生えるよう、主人公のサムにフォーカスしてゲームが展開される。
物語はほぼサム視点で描かれ、ゲーム性に至っても「サムが荷物を届ける」という目的に向けて注力されている。
サムにスポットを当て続け、数々の苦難が待ち受ける果てしない道のりやそれを乗り越えた事を象徴づける眼前に広がる美しい風景、様々な出来事をプレイヤーと共に目にする事でサムとプレイヤーの距離が縮まるよう、繋がれるように様々な要素が深掘りされている。

出典元:KOJIMA PRODUCTIONS

感情移入することによって歩くという行為に込められた面白みも、モノを運ぶことで味わえる達成感もより深く体感する事ができる。
悪路で足の爪が割れ、時雨で荷物を痛ませながらも何とか高い山を乗り越えた時に贈られる感謝の言葉。
BBが自家中毒を起こし血液も失くなり、途方にくれているところに他のプレイヤーが建設してくれたセーフハウス、いわゆる他者との繋がりが現れる。
それらにも本作ならではの物語への感動があり、現在における唯一無二のゲーム性を持っていると感じられるのではないだろうか。

ゆえに人を選ぶという表現は確かに納得できる部分があるし、プレイ動画や配信だけではこの作品全体の良さが伝わりにくいのも確かだ。

総評

一点に集約したゲーム性、怒濤のカットシーン、現代社会をなぞったような哲学的なメッセージ性はどれも尖鋭で「万人に薦められる作品」とは言い難い。
しかし、一貫して深掘りされてオリジナリティが際立ったゲームデザインと新たな側面を見ることの出来る先進的なオンラインシステムは、ゲーム文化を語るうえで非常に価値のあるものだ。

そして何より、開発チームとしての第1作目に関わらず保身に走ることなく安牌には手を出さない、ゲームのエンターテイメントとしての魅力を広げようと挑戦する小島氏のトップクリエイターとしての姿勢には感心させられた。

出典元:KOJIMA PRODUCTIONS

これからのKOJIMA PRODUCTIONSのさらなる躍進に大いに期待しつつ、当記事を締めくくりたい。